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研究プロジェクト

素粒子論は、小さな粒子のみを対象とする学問だと思う学生もいるかもしれません。実はそれは正確ではなく、大きなものとして知られている宇宙をも研究対象としています。この大きな宇宙と小さな素粒子がどのように関連してくるのかが、初期宇宙を知る重要な鍵です。また、一方で、自然界とは直接関係しない理論を時には扱います。それは数学的な面白さがあるという面もありますが、本当に知りたい理論が難しくて解けない場合、それと非常によく似た理論(しかし解くことができる)を扱うことで、何が本質的に起こっているのかを見極めることができるのです。90年代に巻き起こった驚異的な理論の進展に双対性があります。双対性は異なる2つの理論における対応関係です。対応関係が分かっていれば、片方の理論でわからない物理量でも、もう片方の理論を用いて求めることができるのです。90年代には、この双対性の概念とDブレーンと呼ばれる膜状の物体の存在が、弦理論の革命(第2次弦理論革命)を起こしました。私の研究は、主に、この弦理論革命によってもたらされた新しい概念やテクニック(双対性)などを用いて初期宇宙の問題に挑戦することです。

研究対象

超弦理論  

超弦理論は素粒子が感じる4つの力(重力、電磁力、強い力、弱い力)を統一する理論であり、かつ量子化できる重力理論である。現代物理学におけるひとつの問題はアインシュタインの一般相対性理論と量子力学を両立させる4次元時空の理論が存在していないことである。弦理論は10次元に拡張することで、その両方を取り入れることに成功した。6次元の余計な次元が存在することになるが、その自由度をうまく利用することで標準模型の構成も可能となっている。

私の研究課題の一つは、この超弦理論の枠組みで初期宇宙の描像を明らかにすることである。特に、近年問題になっているのが、弦理論の真空構造である。弦理論には、異なる4次元理論を作り出す可能性が非常に多くあり(余剰な6次元の自由度が原因である)、我々の世界を記述する真空のみならず、非常に多くの異なる物理法則を導く真空が存在していると考えられている。このシナリオでは、宇宙は一つではなく、マルチバースである可能性が導かれる。​私は、この論理的に導かれた結論を積極的に受け入れ、そのシナリオで起こりうる相転移と触媒効果の関係を調べている。 

超対称性と現象論 

宇宙初期には、まだまだ解決されていない理論的な問題がある。特にダークマターやダークエネルギーなどは、宇宙の進化を支配する非常に重要な登場人物であるが、未だにその正体は謎である。私は、様々な観測事実に矛盾しない初期宇宙における理論模型の構築も行っている。特に、超対称性を保つ理論での模型の構築を行っている。超対称性は、弦理論を矛盾なく定義し、4次元の理論を得る時にも有用な役割を果たしているので、現時点では見つかってないものの、高エネルギー物理では重要になると考えられている。

超対性ゲージ理論と閉じ込め問題 

原子核を構成している粒子はクォークであるが単独で観測されることはない。それは、クォークの閉じ込めが起こっているからだと考えられている。しかし、このクォークの閉じ込め現象は、未だに解かれていない問題である。それは理論が強結合となり振る舞いを知るためのテクニックを持ち合わせていないことが原因の一つである。そこで、理論的には非常に似ているが、超対称性を保つ理論を用いることで、閉じ込め現象それ自体の理論的知見を得ようとする試みがなされた。90年代に爆発的に進んだ双対性の概念を用いることで、ひとつの理論では理解できないことも、対応関係のある別の理論を調べることでその振る舞いを知ることができる。このテクニックをもとに、閉じ込め現象が磁気単極子の凝縮により引き起こされることを示した具体例がサイバーグとウィッテンにより提唱され、業界を驚かせた。このテクニックは、それ以降爆発的な進展を遂げ、次元の異なる理論間の対応関係やラグランジアンを持たない理論との対応関係、あるいは、高エネルギーに行くと次元が上がるなど、大変理論的に興味深い現象が次々に明らかになり、理論的な発想の泉となっている。

これらの試みによって培われたテクニックが、近年さらに広がりをみせ、超対称性を含まないようなより現実に近い理論でも研究なされており、関連した研究にも興味をもって進めている。

学生との共同研究
 
これらのトピックは高度な専門知識が必要とされるが、修士課程卒業までに研究論文としてまとめることは可能なレベルである。実際に学生と行った共同研究を紹介しておこう。

Catalytic Creation of Bubble Universe Induced by Quintessence in Five Dimensions

古賀一成氏(2020年度D1)との共同研究

​雑誌に投稿中

Instability of Higgs Vacuum via String Cloud 

古賀一成氏(2019年度M2)と黒柳幸子氏(名大&Madrid U.)の共同研究

Physics Letter B に掲載

Catalytic Creation of Baby Bubble Universe with Small Positive Cosmological Constant

古賀一成氏(2019年度M2)との共同研究

Journal of High Energy Physicsに掲載

Baryon as Impurity for Phase Transition in String Landscape 

笠井彩氏(2015年度M2)と中井雄一郎氏(ハーバード大学 研究員)の共同研究

Journal of High Energy Physics に掲載

Gravitational Correction to Fuzzy String in Metastable Brane Configuration 

笠井彩氏(2015年度M2)との共同研究

Journal of High Energy Physics に掲載

Decay of False Vacuum via Fuzzy Monopole in String Theory 

笠井彩氏(2015年度M2)との共同研究

Physical Review D に掲載

Radiation of Supersymmetric Particles from Aharonov-Bohm R-string 

米本隆弘氏(2014年度M2)との共同研究

Journal of High Energy Physics に掲載

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